長崎県弁護士会所属

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第二回 兼業禁止

2020.04.30
Q Xさんは,建設業を営むY会社の事務員です。
  Y会社での勤務時間は午前8時45分から午後5時15分までであり、その具体的職務内容は本社・外回りの社員・顧客からの電話連絡の処理、営業所内の清掃、本社と営業所との通信事務、営業所内の書類整理等です。
 Xさんは,Y会社に無断で,キャバレーZにおいて、午後6時から午前0時までホステスとして勤務するようになりました。
 Y会社には,「会社の承認を得ないで在籍のまま他に雇われたとき」には,懲戒できる旨の規定があります。
 Y会社は,Xさんを懲戒解雇することができますか。
 
A 無断で二重に就職したことが,兼業の判断を委ねる就業規則に反し,Y会社との間の雇用関係上の信用関係を破壊したこと,兼業の職務内容は重複しないものの,軽労働とはいえ毎日の勤務時間は6時間に互りかつ深夜に及ぶもので,単なる余暇利用のアルバイトの域を越えるものといえ,当該兼業がY会社への労務の誠実な提供に何らかの支障をきたす蓋然性が高いものとみられるため,事前にY会社への申告があつた場合には当然にY会社の承諾が得られるとは限らないものであったという理由から,同種の事案で,(通常)解雇を有効とした裁判例があります。
 この裁判例によれば,懲戒解雇は有効とされる可能性があります。
 
 就業規則で,兼業を禁止することについて,この裁判例によれば,
「法律で兼業が禁止されている公務員と異り、私企業の労働者は一般的には兼業は禁止されておらず、その制限禁止は就業規則等の具体的定めによることになるが、労働者は労働契約を通じて一日のうち一定の限られた時間のみ、労務に服するのを原則とし、就業時間外は本来労働者の自由であることからして、就業規則で兼業を全面的に禁止することは、特別な場合を除き、合理性を欠く。しかしながら、労働者がその自由なる時間を精神的肉体的疲労回復のため適度な休養に用いることは次の労働日における誠実な労働提供のための基礎的条件をなすものであるから、使用者としても労働者の自由な時間の利用について関心を持たざるをえず、また、兼業の内容によつては企業の経営秩序を害し、または企業の対外的信用、体面が傷つけられる場合もありうるので、従業員の兼業の許否について、労務提供上の支障や企業秩序への影響等を考慮したうえでの会社の承諾にかからしめる旨の規定を就業規則に定めることは不当とはいいがたく、したがつて、同趣旨の債務者就業規則・・・の規定は合理性を有するものである。」
と判断しています。
 
 なお,働き方改革により,副業・兼業の促進が進められており,厚生労働省は,「副業・兼業の促進に関するガイドライン」を定めています。
 それによれば,企業側のメリットとして,①労働者が社内では得られない知識・スキルを獲得することができる,②労働者の自律性・自主性を促すことができる,③優秀な人材の獲得・流出の防止ができ、競争力が向上する,④労働者が社外から新たな知識・情報や人脈を入れることで、事業機会の拡大につながるとされている反面,留意点として,必要な就業時間の把握・管理や健康管理への対応、職務専念義務、秘密保持義務、競業避止義務をどう確保するかという懸念への対応が必要とされています。
 
 労働時間に関する規制は,副業・兼業の場合にも及び,後に労働契約を締結した事業主は,その労働者がほかの事業上で労働していることを確認した上で契約を締結すべきであるので,原則として,後に労働契約を締結した事業者が割増賃金を支払う必要があります。これに対し,2事業所における所定労働時間の合計が法定労働時間8時間を超えない場合には,残業させることで法廷時間外労働をさせた事業主が割増賃金を支払う必要があるとされています。このように割増賃金の支払いに関する複雑な管理が必要になるので,副業・兼業を認める場合であっても,労働時間の管理を行い,長時間労働になり,労働者の健康を損ねないように配慮する必要があります。
 
 厚生労働省の新しいモデル就業規則では,次のように定められています。
 (副業・兼業)
第○条 労働者は、勤務時間外において、他の会社等の業務に従事することができる。
2 労働者は、前項の業務に従事するにあたっては、事前に、会社に所定の届出を行うものとする。
3 第1項の業務に従事することにより、次の各号のいずれかに該当する場合には、会社は、これを禁止又は制限することができる。
① 労務提供上の支障がある場合
② 企業秘密が漏洩する場合
③ 会社の名誉や信用を損なう行為や、信頼関係を破壊する行為がある場合
④ 競業により、企業の利益を害する場合
 
 文責 弁護士 森 本 精 一
この記事を担当した弁護士
弁護士法人ユスティティア 代表弁護士 森本 精一
保有資格弁護士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
専門分野企業法務、債務整理、離婚、交通事故、相続
経歴
昭和60年3月
中央大学法学部法律学科卒業
(渥美東洋ゼミ・中央大学真法会
昭和63年10月
司法試験合格
平成元年4月 最高裁判所司法修習生採用(43期司法修習生)
平成3年4月
弁護士登録(東京弁護士会登録)
平成6年11月
長崎県弁護士会へ登録換
開業 森本精一法律事務所開設
平成13年10月 CFP(ファイナンシャルプランナー上級)資格取得
平成14年4月
1級ファイナンシャル・プランニング技能士取得
平成25年1月
弁護士法人ユスティティア設立
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