遺産の範囲について

相続では,遺産の範囲が争われることがあります。
ここでは,法律上問題となる遺産の範囲についてご説明します。
 

1 遺産確認の訴え

裁判で,遺産であるかどうかを確認する方法です。

 

これについて,最高裁第一小法廷昭和61年3月13日判決・民集40巻2号389頁は,
「共同相続人間において,共同相続人の範囲及び各法定相続分の割合については実質的な争いがなく,ある財産が被相続人の遺産に属するか否かについて争いのある場合,当該財産が被相続人の遺産に属することの確定を求めて当該財産につき自己の法定相続分に応じた共有持分を有することの確認を求める訴えを提起することは,もとより許されるものであり,通常はこれによって原告の目的は達しうるところであるが,・・・争いのある財産の遺産帰属性さえ確定されれば,遺産分割の手続が進められ,当該財産についても改めてその帰属が決められることになるのであるから,当該財産について各共同相続人が有する共有持分の割合を確定することは,さほど意味があるものとは考えられないところである。これに対し,遺産確認の訴えは,右のような共有持分の割合は問題にせず,端的に,当該財産が現に被相続人の遺産に属すること,換言すれば,当該財産が現に共同相続人による遺産分割前の共有関係にあることの確認を求める訴えであって,その原告勝訴の確定判決は,当該財産が遺産分割の対象たる財産であることを既判力をもつて確定し,したがって,これに続く遺産分割審判の手続において及びその審判の確定後に当該財産の遺産帰属性を争うことを許さず,もって,原告の前記意思によりかなった紛争の解決を図ることができるところであるから,かかる訴えは適法というべきである。」と判示しました。
 

2 銀行預金と相続

(1) 判例上は分割債権化するとされています。
 最高裁第一小法廷昭和29年4月8日判決・民集8巻4号819頁は,
相続人が数人ある場合において,「その相続財産中に金銭その他の可分債権あるときは,その債権は法律上当然分割され各共同相続人がその相続分に応じて権利を承継するものと解するを相当とする。」と判示しています。
また,最高裁第三小法廷昭和30年5月31日判決・民集9巻6号793頁は,
「相続財産の共有(民法898条,旧法1002条)は,民法改正の前後を通じ,民法249条以下に規定する『共有』とその性質を異にするものではないと解すべきである。」とし,「それ故に,遺産の共有及び分割に関しては,共有に関する民法256条以下の規定が第一次的に適用せられ,遺産の分割は現物分割を原則とし,分割によって著しくその価格を損する虞があるときは,その競売を命じて価格分割を行うことになるのであって,民法906条は,その場合にとるべき方針を明らかにしたものに外ならない。」としました。

 

(2) 可分債権は遺産になりません
可分債権は,遺産分割を待つまでもなく,当然に相続分に応じて分割されるので,遺産分割の対象にならないとされています。
ただし,実務上は,相続人全員の合意があれば,当事者の一種の処分権の行使であるから,遺産分割の対象としてよいとされています(司法研修所編『遺産分割事件の処理をめぐる諸問題』245頁以下参照)。

 

(3) 銀行実務の取扱
銀行実務は,最高裁判所の判例が存在するにもかかわらず,超過払いを防止するため,遺産分割協議書又は共同相続人全員の同意書及び印鑑証明書の提出がなければ,銀行預金債権の払戻には応じていないようです。
 

3 定額郵便貯金と相続

(1)定額郵便貯金の分割禁止

郵便貯金法は,定額郵便貯金について,一定の据置期間を定め,分割払戻しをしないとの条件で一定の金額を一時に預入するものと定め(郵便貯金法7条1項3号),その据置期間及び預入期間は政令で定め,預入額は公社が定めるとされています(同条2項,郵便貯金規則83条の11)。
 
同法の趣旨は,多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上,預入金額を一定額に限定し,貯金の管理を容易にして,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにあります。
 

(2)判例

最高裁第二小法廷平成22年10月8日判決・民集64巻7号1719頁は,次のように判断しました。
 
「定額郵便貯金債権が相続により分割されると解すると,それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず,定額郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図るという趣旨に反する。他方,同債権が相続により分割されると解したとしても,同債権には上記条件が付されている以上,共同相続人は共同して全額の払戻しを求めざるを得ず,単独でこれを行使する余地はないのであるから,そのように解する意義は乏しい。これらの点にかんがみれば,同法は同債権の分割を許容するものではなく,同債権は,その預金者が死亡したからといって,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。そうであれば,同債権の最終的な帰属は,遺産分割の手続において決せられるべきことになるのであるから,遺産分割の前提問題として,民事訴訟の手続において,同債権が遺産に属するか否かを決する必要性も認められるというべきである。」
 
定額郵便貯金は遺産分割の対象となるということです。一般の銀行預金とは扱いを異にすることになります。
そうすると,共同相続人間において,定額郵便貯金債権が現に被相続人の遺産に属することの確認を求める訴えについては,その帰属に争いがある限り,確認の利益があるというべきである。
(2) 前記事実関係によれば,本件訴えのうち,本件債権がAの遺産に属することの確認を求める部分については確認の利益があるというべきである。同部分につき確認の利益を認めた原審の判断は,結論において是認することができる。所論引用の判例(最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁)は,本件に適切でない。論旨は採用することができない。

 

なお,上告人Y1は,第1審判決別紙財産目録記載1の各不動産がAの遺産に属することの確認を求める部分についても上告受理の申立てをしたが,その理由を記載した書面を提出しないから,同部分に関する上告は却下することとする。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官古田佑紀,同千葉勝美の各補足意見がある。
 

4 現金について

最高裁第二小法廷平成4年4月10日判決・家月44巻8号16頁は,
「相続人は、遺産の分割までの間は、相続開始時に存した金銭を相続財産として保管している他の相続人に対して、自己の相続分に相当する金銭の支払を求めることはできないと解するのが相当である。」としました。
 

5 株式について

最高裁第三小法廷平成2年12月4日判決・民集44巻9号1165頁は,株式については,不可分であり,遺産分割されるまでは共同相続人が株式を準共有する状態であることを明らかにしています。

 

この判例自体は,株式を相続により準共有するに至った共同相続人は,商法203条2項にいう「株主ノ権利ヲ行使スベキ者」の指定及びその旨の会社に対する通知を欠く場合には,特段の事情がない限り,株主総会決議不存在確認の訴えにつき原告適格を有しないこと,株式を準共有する共同相続人間において商法203条2項にいう「株主ノ権利ヲ行使スベキ者」の指定及びその旨の会社に対する通知を欠く場合であっても,右株式が会社の発行済株式の全部に相当し,共同相続人のうちの一人を取締役に選任する旨の株主総会決議がされたとしてその旨登記されているときは,他の共同相続人は,右決議の不存在確認の訴えにつき原告適格を有するとしたものです。
 

6 投資信託について

最高裁第三小法廷平成26年2月25日判決・民集68巻2号173頁は,
① 委託者指図型投資信託という類型の投資信託について
「委託者指図型投資信託(投資信託及び投資法人に関する法律2条1項)に係る信託契約に基づく受益権」について,「この投資信託受益権は,口数を単位とするものであって,その内容として,法令上,償還金請求権及び収益分配請求権(同法6条3項)という金銭支払請求権のほか,信託財産に関する帳簿書類の閲覧又は謄写の請求権(同法15条2項)等の委託者に対する監督的機能を有する権利が規定されており,可分給付を目的とする権利でないものが含まれている。このような上記投資信託受益権に含まれる権利の内容及び性質に照らせば,共同相続された上記投資信託受益権は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」と判示し,

 

② 外国投資信託に係る信託契約に基づく受益権について
「外国投資信託は,外国において外国の法令に基づいて設定された信託で,投資信託に類するものであり(投資信託及び投資法人に関する法律2条22項),上記投資信託受益権の内容は,必ずしも明らかではない。しかし,外国投資信託が同法に基づき設定される投資信託に類するものであることからすれば,上記投資信託受益権についても,委託者指図型投資信託に係る信託契約に基づく受益権と同様,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものとする余地が十分にあるというべきである。」と判示し,

 

③ 個人向け国債について
「本件国債は,個人向け国債の発行等に関する省令2条に規定する個人向け国債であるところ,個人向け国債の額面金額の最低額は1万円とされ,その権利の帰属を定めることとなる社債,株式等の振替に関する法律の規定による振替口座簿の記載又は記録は,上記最低額の整数倍の金額によるものとされており(同令3条),取扱機関の買取りにより行われる個人向け国債の中途換金(同令6条)も,上記金額を基準として行われるものと解される。そうすると,個人向け国債は,法令上,一定額をもって権利の単位が定められ,1単位未満での権利行使が予定されていないものというべきであり,このような個人向け国債の内容及び性質に照らせば,共同相続された個人向け国債は,相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。」
とし,相続により当然には分割されないことを明らかにしています。
 

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