取引先が倒産した場合,売掛金の回収は極めて困難です。
破産手続の場合には,裁判所が選任する破産管財人が破産者の財産を換価して各債権者に平等に配当してくれますが,配当率は低いのが一般で,配当がない場合もあります。
(1)情報の確認
取引先先に関する倒産情報を入手した場合,可能な限り早く,実際に取引先を訪れて,倒産状態にあるかどうかの事実確認をしましょう。
実際にはその取引先が倒産状態になかったにもかかわらず,取引を一方的に打ち切ったりすると当該取引打ち切りにより生た損害について賠償責任を負う恐れがあります。
遠隔地の場合は,信用情報機関による倒産情報によることが多いかと思います。
(2)保全手続・公正証書の取得・強制執行
取引先について破産手続などの法的手段が取られなければ,仮差押等の保全手続,公正証書を作成して,公正証書に基づいて,取引先の財産に強制執行することは可能です。
既に公正証書があると,強制執行に直ちに取りかかれます。
しかし,その後に取引先が破産等の法的手続を取ることになった場合,保全手続,強制執行手続は効力を失ってしまいます(破産法42条)ので,ご注意下さい。弁護士に相談されることをお勧めします。
(3)債権譲渡・代物弁済
取引先が了解すれば,代物弁済という形で,代金の代わりに取引先の所有する商品等の譲渡を受けることも可能です。
取引先が持っている債権の譲渡を受けて,自社の再建の支払いに充てることも考えられます。
いずれの場合も,後日争いにならないよう取引先との間で書面を作成することが必要ですし,債権譲渡の場合には,取引先企業から相手先企業に確定日付付きの債権譲渡の通知書を送付してもらうことが必要になります。
但し,後日破産手続などの法的手続が取られた場合,否認権の行使によって効果が否定されることがありますので,ご注意下さい。弁護士に相談されることをお勧めします。
(4)相殺
依頼企業様が取引先に対して買掛金などの債務を負担している場合には,互いの債権債務を対当額で相殺することによって,代金債権の支払を受けたと同様の効果を得ることができます(破産法67条1項)。
この際には,必ず配達証明付きの内容証明郵便で出すか,合意相殺をしたことを書面で残すかしないといけません。代表者が行方不明にならないうちに,弁護士に相談されることをお勧めします。
(5)商品の引き上げ
代金未払であるが,納品がなされた商品が相手方にあるかどうかを確認し,あればその引き上げをすることを考えます。
基本契約書に所有権留保特約があれば,代金未払の商品は引き上げができます。
契約書がなかったり,特約がなかったりした場合が問題です。
相手方に無断で持ち出すと,建造物侵入罪(刑法130条)や窃盗罪(刑法235条)に該当するのでお勧めできません。少なくとも,相手方代表者か,そうでなくとも倉庫等を管理する相手方従業員の同意を得て引き上げることになります。
同意があったかなかったあとで困ることのないように書面で同意をもらいます。
後日,破産管財人から否認権対象行為として問題にされる可能性がありますが,弁護士に相談して対処を検討することになります。
法的に,仮処分,仮差押も検討に値しますが,前述したとおり,判決執行まで時間的に間に合わないことが多いです。破産すると保全の効力はなくなることになっているので(破産法42条),破産手続の債権者平等の考え方が優先してしまいます。
(6)担保・保証の確保
以前から担保権や保証人が付いている場合は,担保権を実行するか,保証人に請求する方法が考えられます。
破産したあと,あらたに所有する不動産に抵当権等の担保権を設定することも考えられます。ただし,取引先が破産直前の状態で不動産に担保権を設定する行為は,破産管財人による否認権行使の対象となる可能性があります。
新たに保証人になってもらう方法は,すでに倒産状態にある状況で現実的に保証人になる人は実際上いませんし,社長は個人で会社の借入の連帯保証人となっていることが多く,書面で保証人になってもらったところで,回収は困難であるといわざるを得ません。
(7) 動産売買先取特権
動産を売却した売主には,売買代金が未払いの場合,売り渡した動産から優先的に代金を回収しうるという「先取特権」があります(民法311条,321条)。
この動産売買の先取特権は,破産手続では別除権として,優先的な取扱いがなされます。したがって,抵当権同様,ほかの債権者に優先するので,このような先取特権の行使が可能かどうか弁護士に相談することが必要になります。
裁判所での申立が必要で,裁判所では,売買関係や納品したことの証拠の提出を要求されますので,日頃から,発注書・受注書・契約書・納品書等の書類を準備しておくようにして下さい。
売却した商品が,相手方から第三者に転売されているものの,その転売代金が相手方に支払われていないときは,先取特権の「物上代位」(民法304条)によって転売代金を差し押さえ,優先的に回収することができる場合があります。
(8)当事務所の実例
東京高裁平成12年3月17日決定・判時1715号31頁は,当事務所が代理人として関与した事件で,製作物供給契約について動産先取特権が認められた事例です。
【事案の概要】
Yは、Zが、自己の顧客であるピザチェーン店で使用するピザ宅配用段ボールを制作するための段ボール投入・供給及び検査・集積装置を、Xに対して代金940万円で発注し、ZはYに対し、本件装置を代金1150万円で発注した。XはYの指示に基づき、Zに本件装置を納入したが、Yが破産宣告を受けたため、Xは自己のYに対する代金債権を請求債権として、YのZに対する代金債権を、動産売買先取特権に基づく物上代位権の行使として差押えを申し立てた。
【裁判所の判断】
裁判所は、X・Y間の契約は制作物供給契約であるが、目的物が代替物であること、制作に要した期間や労力、製品のオリジナル性が少ないことから、売買と同視しうるとして、X・Y間の請求債権が売買代金債権に当たり、動産売買先取特権の成立を認めた。そして、Y・Z間の契約も、Xが制作した装置にほとんど手を加えることなくZに引き渡すものであることから、売買契約そのものであると認定し、転売代金債権に当たるものとして物上代位による差押えを認めた。
【コメント】
「制作物供給契約」とは、「仕事を引き受けた人が自分で調達した材料で注文通りの物を制作し、その物を供給する契約」です。「契約により物を制作する」という面で請負契約に、「制作した物を代金と引き換えに渡す」という面で売買契約に類似します。一般的には、制作された物が代替物で、この制作物の供給(所有権の移転)に契約の目的の重点があるものは売買契約として扱い、制作された物が不代替物であるものについては、売買に関する規定と請負に関する規定とを混合的に適用するが、仕事の完成に契約の目的の重点がある場合には請負の規定が適用される、という見解(混合契約説)が一般的とされています。
売買の面に着目すれば,動産売買に関する先取特権が認められやすいのに対して,請負の面に着目すれば先取特権が認められないということになります。
同じ製作物供給契約でも,大阪高裁昭和63年4月7日決定・判時1247号91頁(熱風発生炉およびプレヒーターポンプ一式に関する),東京高裁平成15年 6月19日決定・金法1695号105頁(印刷機械に関する)はこれを否定しており,事案ごとの判断となっています。