長崎県弁護士会所属

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第六回 メンタルヘルス編② 休職期間満了後の退職または解雇について

2020.04.30
Q Xさんは,メンタルヘルス疾患で休職中です。メンタルヘルス疾患の回復がなく,就労不能であると考えられるため,休職期間満了によりY会社はXさんを退職または解雇しようとしていますが,注意すべきことは何かありますか。
 

1 まず,休職期間に関する就業規則を確認してください。

「休職期間満了までに復職できない場合は退職扱いとする。」と記載されている場合と,「休職期間満了までに復職できない場合は解雇する。」と記載されているケースがあるかと思います。
 
 

2 休業期間満了までに,医師の診断書が提出されず,就労可能であるとの復職願が提出されなければ,就業規則上の退職または解雇を検討することになります。

 
法的には,休職中の従業員との雇用関係を休職期間満了を理由に終了させることを意味します。
 
 

3 従業員が休職期間満了までに復職できなかった場合は,退職扱いあるいは解雇は適法と判断されることが多いようです。

 
① ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件 東京地裁平成24年3月9日判決・労判1050号68頁
 
Xは,本件休職命令に先立って設定された,Y1社H人事部長代行との面談を一方的に放棄する一方で,本件休職命令それ自体に対しては特に異議等を述べなかったばかりか,Y1社から復職意思の有無や自然退職の注意喚起があったにもかかわらず,その意思さえあれば容易なはずの復職願を提出せず,そのまま本件休職期間の満了を迎えたものであり,Y1社において,本件退職扱いに先立って専門医等からの意見聴取を行わなかったことをもって,客観的合理性や社会的相当性に欠けるものということはできないとされ,本件退職扱いは有効であり,Xは,本件休職命令の満了時の経過をもって,Y1社を自然退職したものと認められるとして,XのY1社に対する地位確認請求および本件退職扱い後の賃金請求が棄却されています。
 
② 日本電気事件 東京地判平成27年7月29日・労判1124号5頁
 
Xは,アスペルガー症候群の休職期間満了で退職扱いされたためY社に対し,地位確認等を求めた事案。裁判所は,従前の予算管理業務は主治医が就労可能とした対人交渉の少ない部署だが,満了前の試験出社時に上司の指導を受け入れないなど不穏な行動があり就労に支障がある精神状態と判断し,休職時の職である予算管理業務が通常程度に行える健康状態にも,当初軽易作業に就かせればほどなく通常程度に行える健康状態にもなっていないとして,請求が棄却されました。
 

4 これに対し,セクハラ,パワハラ,長時間労働,退職強要などによる精神疾患を原因とする休職のケースで,休職期間満了時の退職扱いあるいは解雇した場合には,違法と判断されることが多いようです。

 
③ エム・シー・アンド・ピー事件 京都地裁平成26年2月27日判決・労判1092号6頁
 
うつ病休職から復帰後の退職勧奨で再休職し、その期間満了での退職扱いは違法で無効として、慰謝料や地位確認を求めた事案で,裁判所は,5回勧奨を繰り返し,応じなければ解雇の可能性を示唆するなど自由な意思決定を困難にしており違法と判断。勧奨で強い心理的負荷が生じ,うつ病の悪化に業務起因性が認められることから退職も無効と判断した事例。
 
④ 東芝事件
  控訴審 東京高裁平成28年8月31日判決・労判1147号62頁
  第一審 東京地裁平成20年4月22日判決・労判965号5頁
 業務上疾病に罹患して休職し、休職期間満了後に解雇されたことにつき、解雇を無
効として、労働者が雇用契約上の地位確認及び賃金の支払等を求めた事案
1.業務実態を見ると、就労時間・業務内容ともに原告労働者に肉体的・精神的負荷を生じさせたものということができ、したがって発症したうつ病は工場での業務に内在する危険が現実化したものというのが相当であるとして、業務とうつ病の発症との間に相当因果関係を認めて解雇を無効とした事例。
2.会社の債務不履行又は不法行為については、平成12年12月の「こころ”ほっと”ステーション」への電話相談、同13年3月・4月の「時間外超過者健康診断」受診時は、原告の異常に気づき、心身の健康を損なうことのないよう注意する義務を負っていたと解するのが相当のところ、会社及び管理者はこれに気づくことなく過ごしてしまったことはこの注意義務の不履行といえるが、その後原告の業務量を減らし、長期欠勤・休職を認め、カウンセリングを実施するなどして職場復帰に向けた対応等を行ったことから、安全配慮義務違反とまではいえないとした事例。
 
 

5 医師が復職可能と診断しているのに,会社が適確な反証もなく復職を認めずに休職期間を満了したケースでも、不当解雇と判断している裁判例が多いようです。

 
⑤ キャノンソフト情報システム事件 大阪地裁平成20年1月25日判決・労判960号49頁
 
自律神経失調症で休職していた従業員について、従業員が復職を希望し、医師も復職可能と判断していたが、会社が復職を認めずに休職期間満了により退職扱いとした事案で裁判所は、復職が可能であるのに退職扱いとしたことは不当解雇であると判断し、現在も雇用関係は継続していると判断したうえで、退職により支払われなかった賃金等を従業員に支払うことを命じました。
 
文責 弁護士 森 本 精 一
この記事を担当した弁護士
弁護士法人ユスティティア 代表弁護士 森本 精一
保有資格弁護士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
専門分野企業法務、債務整理、離婚、交通事故、相続
経歴
昭和60年3月
中央大学法学部法律学科卒業
(渥美東洋ゼミ・中央大学真法会
昭和63年10月
司法試験合格
平成元年4月 最高裁判所司法修習生採用(43期司法修習生)
平成3年4月
弁護士登録(東京弁護士会登録)
平成6年11月
長崎県弁護士会へ登録換
開業 森本精一法律事務所開設
平成13年10月 CFP(ファイナンシャルプランナー上級)資格取得
平成14年4月
1級ファイナンシャル・プランニング技能士取得
平成25年1月
弁護士法人ユスティティア設立
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