長崎県弁護士会所属

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ニュースレター 2013年7月10日・20日合併号

2013.08.13
梅雨が明けて猛暑の日々が続きます。節電難しそうです。お体に気をつけてご自愛下さい。多忙のため,10日号を出せなかったことをお詫び申し上げます。今回は,20日号との合併号となります。頑張って継続したいと思います。A4の1枚分の量が1回分なので,今回は2枚分になりました。難しい話しが続きますが,おつきあい下さい。
 

経営権争奪戦の予防

1 株主総会では,法令・定款に別段の定めがある場合を除き,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し(定足数),出席した当該株主の議決権の過半数の賛成により成立する(会社法309条1項)という普通決議が原則です。
 
 しかし,兄弟2人なら,被相続人の株式の2分の1がそれぞれの相続人に帰属し,兄弟2人が仲違いしてしまうと普通決議すら決められなくなることになります。暗礁に乗り上げるのと同じですので,デッドロック・リスクと呼ばれています。
 
2 これに対し,定款変更,組織再編行為等株主の地位に重大な影響のある事項,または支配株主等一部の株主のみが利益を受けることになりがちな事項等,慎重な判断を要する事項に関する決議については,議決権を行使することができる株主の議決権の過半数を有する株主が出席し,出席した当該株主の議決権の3分の2以上にあたる賛成により成立します(同法309条2項。特別決議)。
 
 とすると,兄弟3人なら,経営に携わっていない2人の兄弟が反対すると特別決議事項を可決することができないというリスク(特別決議リスク)があります。
 
3 このような事態を防ぐためにはどうすればよいのでしょうか。
 
1つは,経営権を掌握する予定の取締役が相続開始前に必要な株式(特別決議まで見越すと3分の2以上の取得が必要です)を取得してしまえば問題がないことになります。
 
もう1つは,議決権なき株式を非経営者株主へ遺言で相続させる方法です。
会社法は,総会決議事項の全てにつき議決権を有する(議決権普通株式)と一切の事項につき議決権がない(完全無議決権株式)の発行を認めています(同法108条1項3号)。
 
ただし,定款に定めることを要するので(同法108条2項3号イ),定款に定めがない会社において,これからこの制度を導入しようとする場合には,定款変更の手続が必要になり,法律上特別決議が要求されます(同法466条。309条2項11号)。
 
株主毎に異なる取り扱いをする旨の定め(同法109条2項)をして,議決権・配当を事業承継者に有利に規定する方法も考えられます。全株式譲渡制限会社であることが前提ですが,例えば,解釈上,定款で特定の株主の所有株式について一株複数議決権を認めることができると解されています。
  この場合も,定款に定めがない場合には,定款変更の手続(特別決議)が必要です。

それ以外にも,
 ① 取締役の任期を10年にし(同法332条1項),解任決議要件を加重しておく(同法341条)と経営権争奪戦の予防になるでしょう。
通常取締役の任期は,選任後2年以内に終了する最終の定時総会の終了時までとされています(同法332条1項)が,全株式譲渡制限会社であれば,所有と経営が一致している場合が多く,頻繁に株主の信任を問う必要がないという理由で,定款で任期を選任後10年以内に終了する事業年度のうち最終のものに関する定時株主総会の終結の時まで伸長することが可能です。
旧商法は,取締役の解任は特別決議だったのですが,会社法では普通決議に変更になっています。定款で解任要件を加重することは規定上可能ですので,その地位の安定を考えれば,定款に記載すべきものと思われます。
 
 ② 取締役の定員を2人にするか,定款・定款の定めに基づき取締役会の互選または株主総会の決議によって特定の取締役を代表取締役に定める方法もあります(同法349条1項但書,3項)。
   取締役会設置会社においては,取締役は3人以上でなければなりません(同法331条4項)が,取締役会設置会社以外の会社であれば,取締役は1人でもよいとされています(同法326条1項,348条2項)。2人にするのは,現在の代表者(先代社長)と次の事業承継予定者を取締役にするという意味です。
 
 ③ 取締役の解任につき株主全員の同意を要求する旨の定款の有効性については争いがありますが,閉鎖型のタイプの会社においては有用であり,かつ,たとえ株主総会決議の成立が不可能でも役員解任の訴え(同法854条)という代替手段があるので,有効であるという有力な学説があり(江頭憲治郞「株式会社法・第3版」335頁注(1),それに従えば,この方法も有用でしょう。
  
  ①~③のいずれも,現在の定款に定めがない場合には,定款変更の決議(特別決議)が必要となるので,それが事実上のネックになる場合があります。

4.次回は,株式の帰属を巡る紛争の予防について,簡単にご紹介致します。
この記事を担当した弁護士
弁護士法人ユスティティア 代表弁護士 森本 精一
保有資格弁護士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
専門分野企業法務、債務整理、離婚、交通事故、相続
経歴
昭和60年3月
中央大学法学部法律学科卒業
(渥美東洋ゼミ・中央大学真法会
昭和63年10月
司法試験合格
平成元年4月 最高裁判所司法修習生採用(43期司法修習生)
平成3年4月
弁護士登録(東京弁護士会登録)
平成6年11月
長崎県弁護士会へ登録換
開業 森本精一法律事務所開設
平成13年10月 CFP(ファイナンシャルプランナー上級)資格取得
平成14年4月
1級ファイナンシャル・プランニング技能士取得
平成25年1月
弁護士法人ユスティティア設立
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