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学校における各種トラブルと法的責任について

平成26年8月29日
弁護士 山 下 雄 一
 

1 体罰について

(1)はじめに(3種類の法的責任)

刑事 暴行罪or傷害(致死)罪
    → 犯罪が成立するかという問題
民事 不法行為,債務不履行
    → 金銭的な賠償問題
その他 懲戒処分等
    → 雇用,任用関係の問題(免職,停職,減給等)

 

(2)体罰についての法の考え方

学校教育法は体罰を明確に否定
 (学校教育法)
 第11条  校長及び教員は,教育上必要があると認めるときは,文部科学大臣の定めるところにより,児童,生徒及び学生に懲戒を加えることができる。ただし,体罰を加えることはできない。
 もっとも,生徒指導に際しては,教え諭すことも必要。
  そこで,法は「体罰」は禁止するが「懲戒」は許容している。
    → どのように区別するのか。

 

(3)「体罰」と「懲戒」の区別① ~文部科学省通達~

ア 通達の内容
「・・・(省略)・・・当該児童生徒の年齢,健康,心身の発達状況,当該行為が行われた場所的及び時間的環境,懲戒の態様等の諸条件を総合的に考え,個々の事案ごとに判断する必要がある。この際,単に,懲戒行為をした教員等や,懲戒行為を受けた児童生徒・保護者の主観のみにより判断するのではなく,諸条件を客観的に考慮して判断すべきである。」

 

イ まとめると
(ア)身体に対する侵害を内容とするもの(殴る,蹴る等)
     → 「体罰」として禁止される。
(イ)身体に対する侵害を内容としないもの
     → 「懲戒」として許容されるのが原則。
(具体例)
退学,停学,訓告,注意,叱責,居残り,別室指導,起立,宿題,清掃,学校当番の割当て,文書指導など
※ただし,これらの行為でも,肉体的苦痛を与えるものは,「体罰」とされる。
(例)起立をさせた生徒が尿意を伝えたが,トイレに行かせない等。
     ↓
その限界はどこにあるのか?

 

(4)「体罰」と「懲戒」の区別② ~最高裁判所平成21年4月28日判決~

ア 最終的に体罰かどうか判断するのは司法権(裁判所)

 

イ 最高裁判所平成21年4月28日判決の事案(民事事件)
 (ア)事案の概要
教師Aが,休み時間に,(コンピューターを使いたいといって)だだをこねる他の児童をなだめていたところ,児童Xが,教師Aの背中に覆いかぶさるようにしてその肩をもむなどした。
すると,児童Xは,通り掛かった女子数人を他の男子と共に蹴るという悪ふざけをした上,これを注意して職員室に向かおうとした教師Aのでん部付近を2回にわたって蹴って逃げ出した。
そこで,教師Aは,児童Xを追い掛けて捕まえ,その胸元を右手でつかんで壁に押し当て,大声で「もう,すんなよ。」と叱った(本件行為)。
児童Aはこれを機に,男子児童は夜中に泣き叫ぶ,食欲が低下する,円形脱毛症が見られるようになった,などの症状を訴えた。

 

 (イ)本件行為は「体罰」にあたるか?
     → 第一審,第二審は「教育的指導の範囲を逸脱する」として,「体罰にあたる」とした。

 

 (ウ)最高裁は,「体罰にあたらない」と判断した。
(理由の要旨)
 ① 教師Aの本件行為は,児童の身体に対し物理的な力を加えた行為である。
 ② しかし,本件行為は,児童Xが他人を蹴るという一連の悪ふざけについて,これからはそのような悪ふざけをしないように指導するために行われたものであり,悪ふざけの罰として児童Xに肉体的苦痛を与えるためにしたのではない。
 ③ 教師Aは,自分自身も児童Xによる悪ふざけの対象となったことに立腹して本件行為を行っており,本件行為にやや穏当を欠くところがなかったとはいえないとしても,本件行為は,その目的,態様,継続時間等から判断して,教員が児童に対して行うことが許される教育的指導の範囲を逸脱するものではなく,学校教育法11条ただし書にいう体罰に該当するものではないというべきである。

 

ウ 判例のまとめ
上記判例では,「身体に対する侵害を内容とするもの」であり,文部科学省通達を機械的に適用すれば,体罰にあたるとされ得る行為である。
しかし,最終的には「体罰には当たらない」と判断された。
        ↓
このように,物理的な力を使った行為であっても,必ず「体罰」にあたるとされるわけではない。

 

(5)「体罰」でも許される場合 ~正当行為,正当防衛~

刑法
(正当行為)
第35条 法令又は正当な業務による行為は,罰しない。
(正当防衛)
第36条 急迫不正の侵害に対して,自己又は他人の権利を防衛するため,や  むを得ずにした行為は,罰しない。

 

(具体例)
文科省の通達より
例1 生徒が教員(又の他の生徒)に対し叩く,蹴るなどの暴行をし,さらにそのような行為を継続しようとする様子を見せた。
 → 制止するため,生徒の身体を押さえる。 
例2 全校集会中に,大声を出して集会を妨げる行為があった生徒を冷静にさせ,別の場所で指導するため,別の場所に移るよう指導したが,なおも大声を出し続けて抵抗
 → 生徒の腕を手で引っ張って移動させる。

 

(6)まとめ

「体罰」は禁止,「懲戒」は原則として許容されうる。
どのような行為が「体罰」とされてしまうのかは結局,全てを個別具体的に明確に明らかにすることは難しいが,学校の法的な防衛という観点から,次のような対応が考えられる。
 ① 物理的な力(有形力)はやむを得ない場合以外,できる限り行使しない。
 ∵保護者等から問題視されるリスクを避ける
 ② 物理的な力(有形力)を用いない懲戒であっても,トイレに行かせない,痛みで苦しんでいるのに継続するなどの「無理強い」はしない。
 

2 セクハラについて

(1)セクハラの種類

ア 対価型
 職務上の地位を利用し,何らかの雇用上,修学上の利益の代償あるいは対価として性的要求が行われること。
 成績,卒業等の「対価」を背景に性的言動を行うなど。

 

イ 環境型
 はっきりとした不利益は伴わないが,性的な言動を繰り返すことによって就業,修学環境を悪化させること。 
  部活動指導中,良いプレーをした生徒を褒める意味で抱きついたとか,授業中に女子生徒の外見についての発言をした,など 

 

(2)学校でのセクハラの特徴

① 拒否できない,拒否しづらい環境で発生すること,教職員と生徒の間に大きな優劣関係があること
     → 「生徒が拒否しなかった」
   という事実があっても,当該言動を正当化する力が極めて弱い。

 

② 自らの言動がセクハラと気付いていない場合が多い(励まし,やさしさの表現など)

 

③ 性に関する言動に対する受け止め方には,個人や性別で差があり,セクハラにあたるか否かについては,相手の受け止め方が重要であること

 

④ 教職員と保護者との間においては,学校内ばかりでなく,学校外や勤務時間外での接触の中で,子どもの成績や進路をめぐってセクハラと訴えられる場合があること

 

(3)事例ごとの検討

ア ケース1
教師A(男性)は,女子バスケットボール部の顧問として,遠征の引率をした。試合は大敗してしまったが,その夜,ホテルの自室に女子部員を1名ずつ呼んで,敗退の原因の話や,今後に向けての励ましなどをした。
うち1名が,会話の最中に無念の気持ちから泣き出してしまったことから,慰めるつもりで抱きしめ,肩,背中,臀部等を撫でた。

 

ケース1の分析
問題点
 ① 顧問と部員という上下関係
 ② 夜間のホテルの個室という閉鎖空間
 ③ 1対1での面談
「あくまで慰める,勇気づけるための目的だった」としても,その「意思」を立証するのは困難。逆に,証拠として出てくる事実は上記のような,こちらに不利なものばかり。

 

イ ケース2
教師Aは,友人関係等で継続的にメール相談を受けていた女子生徒と仲良くなり,放課後などにAの自家用車でドライブに出かけるようになった。
ある日のドライブの際,女子生徒は教師Aをホテルに誘い,教師Aは誘われるままホテルで女子生徒とみだらな行為をした。

 

ケース2の分析
問題点
 ① 同意があっても,18歳未満の少年とのわいせつ行為は,原則として条例(いわゆる淫行罪)違反となる。
 ② 女子生徒側が,自らホテルに誘ったことや性行為に同意していたことを否認した場合,大変なことになる可能性(強姦罪)。
※2人きりでドライブに行ったり,ホテルの自室に入れたりすること自体が問題ともいえる。

 

(4)セクハラの法的責任

民事 被害生徒及びその両親からの慰謝料請求
刑事 セクハラがわいせつ行為等を含む場合,刑事事件になる可能性もある。
 ・条例違反(いわゆる淫行罪)
 ・児童買春,児童ポルノに係る行為等の処罰及び児童の保護等に関する法律違反罪
 ・強制わいせつ罪
 ・強姦罪  等
懲戒処分
 

3 いじめ問題

(1)いじめの問題性

① いじめを受けた子の教育を受ける権利を著しく侵害

 

② 心身の健全な成長及び人格の形成に重大な影響を与える
例 社会性発達の阻害,自尊心の低下,学習意欲の低下等の弊害が指摘される。

 

③ 生命又は身体に重大な危険を生じさせるおそれがある
例 暴行による負傷,自殺

 

(2)いじめと刑事責任 ~構成要件に該当する行為類型~

ア いじめと犯罪・・・具体的な行為ごとに検討必要
 殴る,蹴る
 → 暴行罪,傷害罪
 嫌なこと恥ずかしいことを無理やりさせる
  → 強要罪,強制わいせつ罪
 脅して金品を巻き上げる
  → 恐喝罪
 インターネットで誹謗中傷を書き込む
  → 名誉棄損罪

 

イ 先生方において,いじめが以上のような各種犯罪にあたる可能性があることを知っておくことが必要
 犯罪にあたる行為がある場合は,警察への相談,通報が可能であるが,そうでない場合には,民事不介入により,警察は関与しない。

 

(3)警察への通報について

文部科学省の通達によれば,警察への通報について,
ア 被害児童の生命,身体の安全が脅かされている場合は,直ちに警察に通報することが必要

 

イ そうでない場合でも,教育上の指導を行っているが改善が見られず,加害生徒の行為が犯罪行為として取り扱われるべきと認められるとき
「ためらうことなく早期に警察に相談し,警察と連携した対応を取ることが重要」

 

ウ このような方針については,日頃から保護者に周知を図り,理解を得ておくことが重要としている。

 

(4)いじめの法的問題(民事)

ア 賠償請求をされうるのは誰か
加害生徒,加害生徒の親権者
 → 民法上の不法行為責任を追及される可能性

 

教師個人(私立学校の場合)
学校法人(私立学校の場合)
 → 使用者責任を追及される可能性
    債務不履行責任を追及される可能性

 

県や市(公立学校の場合)
 → 国家賠償法に基づく損害賠償請求の可能性
     債務不履行責任を追及される可能性

 

イ 学校側の対応に違法性があると言われるのはどのような場合か。
(ア)広島地方裁判所 平成19年5月24日判決
「公立中学校の教師は,学校内において,生徒の心身に対しいじめ等の違法な侵害が加えられないよう適切な配慮をする注意義務,すなわち,日頃から生徒の動静を観察し,暴力行為やいじめ等がないかを注意深く見極め,その存在がうかがわれる場合には,関係生徒や保護者らから事情聴取するなどしてその実態を調査し,表面的な判定で一過性のものと決めつけずに,実態に応じた適切な防止措置を講じる義務を負う」

 

(イ)要するに
① 学校においては,<いじめ等の違法な侵害が加えられないよう適切な配慮をする注意義務>がある。
② その具体的な内容は,
・暴力行為やいじめ等がないかを注意深く見極め,
・その存在がうかがわれる場合には,関係生徒や保護者らから事情聴取するなどしてその実態を調査し,
・表面的な判定で一過性のものと決めつけずに,実態に応じた適切な防止措置を講じる義務
       ↓
裁判例からは,どういう対応を取ればよいのかは,はっきりとしたものは読み取れない。

 

(ウ)分析
この判例の事案では,いじめとされる各行為を教師の目の届くところでしていたり,そのような行為があることを被害生徒から聞いたり,教師自身が加害生徒にいじめを注意したりしていた。しかし,加害生徒らや被害生徒や他の同級生から事情を聴取はしなかった。また,事実関係の調査もしなかった。また,加害生徒らに厳しく指導したり,その保護者らに連絡して教育・監督を促すなどの適切な防止措置もとらなかった。
 これらの事実認定のもとに,違法性が肯定されている。
      ↓
 逆に言えば,
 ① 加害生徒,被害生徒,他の同級生等からの事情聴取,事実関係の調査
 ② 加害生徒らへの厳しい指導
 ③ 加害生徒の保護者らに連絡して教育・監督を促す
 といった措置は最低限必要であったと考えられる。

 

(エ)上記以外にも,
 ④ いじめの事実公表及びいじめに関する教示(全校集会等),教職員への通報を促す
 ⑤ いじめを受けた生徒については,注意深く様子を観察するようにし,いじめが続くようであれば,加害生徒の出席停止措置等も検討する。
 ⑥ それでも改善されない場合,警察等への相談・通報を行う。
といった措置が有用ではないかと考えられる。

 

(5)賠償請求がなされたときに備えて
以上の対策については,いずれも客観的な記録に残しておき,実施した事実を後で立証ができるようにしておく。
事実経過について,時系列にまとめて記録をしておく。
 ↓
万が一,被害生徒及びその両親等から,学校に対する賠償請求がなされたときは,これらの資料を用意し,顧問弁護士等へ相談していただくとスムーズです。

 

以上
 

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