長崎県弁護士会所属

弁護士歴30年、長崎県弁護士会会長を経験した代表弁護士をはじめ、4人の弁護士が対応します

諫早事務所(主事務)

島原事務所

長崎事務所

親権

親権はどうやって決めるか

Q 裁判所は、どのような基準で親権決めるのですか

A 子供の年齢により判断要素についてのウエイトの置き方が異なると考えられますが,母性的な役割をどちらが果たしているか,現在の監護状況はどうか,子供の意思,今までの監護実績、親権者としての適格性等を総合的に判断して決めています。

具体的には,父母側の事情(監護の意欲・能力、心身の健康、性格、経済力、実家の資産、居住条件、居住・環境、子に対する愛情の度合い、従来の監護状況、親族等の援助の可能性、奪取の違法性、面接交渉の許容性など)、子の側の事情(年齢、性別、心身の発育状況、従来の環境への適応状況、環境の変化への適応性、兄弟の関係、子の意思、父母・親族との結びつきなど)が考慮要素として検討されるべきです(二宮周平・榊原富士子「離婚 判例ガイド[第2版]」参照)。

1 母性優先の原則

より母性的な者が優先されるべきだという考え方です。主に子供が乳幼児の場合には重視されます。
 

2 現状維持の原則

現状維持の原則とは、現在の監護状況を継続すべきであるとの考え方です。現在、子供を監護している親が、親権者として、優先されるべきだという考え方です。子供が小さいときは、子供の意思の把握が難しいため、この原則が重視されます。

 子供の意思の尊

家事手続法65条は,「家庭裁判所は、・・・未成年者である子がその結果により影響を受ける家事審判の手続においては、子の陳述の聴取、家庭裁判所調査官による調査その他の適切な方法により、子の意思を把握するように努め、審判をするに当たり、子の年齢及び発達の程度に応じて、その意思を考慮しなければならない。と定め,家事調停手続において同条を準用しています(同法258条)。これを受けて,家庭裁判所の調査官は、親権の判断にあたり、概ね10歳以上の子供については、子の意向を調査し、10歳未満では、子の心情調査をします。10歳未満の場合,しっかり状況を理解した判断力があるとはいえない年齢なので、他の項目と照らし合わせて慎重に判断されます。 概ね10歳以上では、子の意向を尊重することも多いようです。また,15歳以上の場合は、裁判所には子供の意思を聞く義務があり(人事訴訟法32条4項)、子供の意見が尊重されることが多いです。

 

裁判例

ア 佐賀家裁昭和55年9月13日審判・家月34巻3号56頁,判例秘書L03560050

事案の概要

 夫婦には3人の子がいましたが、夫が単身赴任中の妻の借金や男性関係により、離婚の協議が成立し、親権者の指定については、あまり話し合われないまま妻とされました。

 その後、妻は、職を転々とし住居も頻繁に変わるなど生活が不安定であったことから、長女(当17歳)は置き手紙をして父の元へ転居、続いて長男(当15歳)も父の元へ転居、両名は父の親権変更の申し立てに賛成していました。他方次男(当12歳)は母に同情し、母との同居継続を希望していました。
 

裁判所の判断

 裁判所は,長女と長男については親権者を父に変更し、次男については、「いまなお、相手方との同居を望み、申立人の元へ移り住むことを躊躇し、同人の福祉の立場からは、いちまつの不安が残り、同人が一二歳にも達していることから、同人の選択にまかせるのが相当」として変更を認めませんでした。

イ 東京高裁平成11年9月20日決定・家月52巻2号163頁,判例秘書L05420266

(判例評論として,民商法雑誌123巻6号144頁参照)

 

事案の概要

 父が、夫婦関係調整の調停が不成立となった後、2人の子供のうち長女(当5歳)を散歩と称して連れ出し、父に対し、子の引渡しを命ずる仮処分審判がなされましたが、父はこれに従わず、人身保護請求の準備調査期日にも仕事を理由に出頭しませんでした。連れ出しから約5ヵ月後、裁判所で実施された母と長女の面接調査において、長女は母に激しい拒否的態度を示しました。


原審判(浦和家庭裁判所)は,

監護権者としての適格性や養育環境については優劣付け難いこと,長女の拒否的な態度は激しいものであり、父母の対立による姉妹の分断はやむを得ないことを前提として、良好な関係にある父と暮らすという苦渋の選択を表明したもので、父と引き離すことは,さらなる精神的な外傷を与えこそすれ決して妹と分断された長女の福祉を回復するものではない、として父を監護権者に指定しました。


抗告審の判断

① 監護権者としての適格性や養育環境について
父は長女を無断で連れ出し,裁判所の保全処分にも従わず,人身保護手続にも全く出頭しなかったのであり,そうこうしているうちに,長女は次第に父らとの生活に安定を見いだすようになったことは否定できず,安易に現状を追認できないと判断しました。

② 長女が示した拒否的な態度について
「長女の拒否的な態度は現在の監護者である父らからの影響が全くないとはいいきれないし、5,6歳の子どもの場合,周囲の影響を受けやすく,空想と現実とが混同される場合も多いので,たとえ一方の親に対する親疎の感情や意向を明確にしたとしても,それを直ちに子の意向として採用し,あるいは重視することは相当ではない。よって,いまだ6歳の子が一度の面接調査時に示した態度を主たる根拠として監護者の適否を決めることはできず、拒否的態度の原因,姉妹を分断することの問題点,長女の年齢や発達段階を考慮したときにそのニーズを最もよく満たすことができるのは誰か,面接交渉の確保の問題など,多角的な観点から検討することが必要であった。」として,これを直ちに子の意向として重視することは相当ではないとして、更に審理を尽くさせるため、原審判を取り消し、差し戻しました。

 

4 補充的な考慮要素として,以下のようなものがあります。

ア 兄弟は分離しないとの原則

兄弟は、できるだけ一緒に育てようという原則です。 

イ 面会交流に対する寛容性

面会交流に否定的な親は親権者としての適格性に疑問があるという考え方です。

ウ 経済力は考慮されるか

現実的な観点からすると,経済力はあるほうがよいですが、「親権を得る」という観点では殆ど重要視されていません。

一般的に父親の方が経済力があることが多いにもかかわらず、9割以上のケースで母親に親権が渡されているころからそのようにいえると思います。

 

この記事を担当した弁護士
弁護士法人ユスティティア 代表弁護士 森本 精一
保有資格弁護士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士
専門分野企業法務、債務整理、離婚、交通事故、相続
経歴
昭和60年3月
中央大学法学部法律学科卒業
(渥美東洋ゼミ・中央大学真法会
昭和63年10月
司法試験合格
平成元年4月 最高裁判所司法修習生採用(43期司法修習生)
平成3年4月
弁護士登録(東京弁護士会登録)
平成6年11月
長崎県弁護士会へ登録換
開業 森本精一法律事務所開設
平成13年10月 CFP(ファイナンシャルプランナー上級)資格取得
平成14年4月
1級ファイナンシャル・プランニング技能士取得
平成25年1月
弁護士法人ユスティティア設立
専門家紹介はこちら
PAGETOP