マタニティ・ハラスメント

Q 妊娠したことが判明して,悪阻が酷くて,休暇を取っていたが,社長から「おまえの戻る場所はない。お前が戻るなら誰かを辞めさせないといけない。」と言われ,退職を強要され,退職したくなかったので,降格に応じました。
 降格されたくなかったのですが,前の役職としての地位を争えるでしょうか。
A 自由な意思に基づく降格といえないとして,争う余地があると思います。

 

1 マタニティー・ハラスメントとは

妊娠・出産した女性に対する職場での精神的,肉体的な嫌がらせのことで,セクハラ・パワハラとともに三大ハラスメントとも言われています。
 

2 マタハラに関する法の規制

「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」(いわゆる「男女雇用機会均等法」)9条1項は,「事業主は,女性労働者が婚姻し,妊娠し,又は出産したことを退職理由として予定する定めをしてはならない。」 
同条2項は,「事業主は,女性労働者が婚姻したことを理由として,解雇してはならない。」
同条3項は,「事業主は,その雇用する女性労働者が妊娠したこと,出産したこと,労働基準法第65第1項 の規定による休業を請求し,又は同項若しくは同条第2項の規定による休業をしたことその他の妊娠又は出産に関する事由であって厚生労働省令で定めるものを理由として,当該女性労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。 」(平成18年改正により平成19年4月1日から施行)とし,
 
同条第4項は,
「妊娠中の女性労働者及び出産後1年を経過しない女性労働者に対してなされた解雇は,無効とする。ただし,事業主が当該解雇が前項に規定する事由を理由とする解雇でないことを証明したときは,この限りでない。」としています。
 
労働基準法19条1項も,
産前産後の女性が65条の規定によって休業する期間(産前休業6週間,多胎妊娠の場合14週間,産後休業8週間)及びその後30日間は解雇できないことを定めています。
 

3 マタハラの実態

日本労働組合総連合会(連合)が行った2015年8月の第3回マタニティハラスメントに関する意識調査では,654名のうち,28.6パーセントがマタハラを経験したことがあると回答しています。
 
その被害内容は,654名を100パーセントとして,
① 妊娠・出産がきっかけで,解雇や契約打ち切り,自主退職への誘導などをされた(出産告知後・産休中・産休明け1年以内)…11.5%
② 妊娠を相談できる職場文化がなかった…8.6%
③ 妊娠中や産休明けなどに、心無い言葉を言われた…8.0%
④ 妊娠中・産休明けに残業や重労働などを強いられた…5.4%
となっています。

また,厚生労働省によると年間3000件以上のマタハラ相談が都道府県労働局に寄せられていること,平成27年11月12日に公表されたマタハラに関する調査結果によれば,派遣社員48.7%,正社員21.8%,契約社員13.3%,パート5.8%がマタハラを経験している,経験したマタハラで最も多かったのは,「『迷惑』『辞めたら?』等権利を主張しづらくする発言」で47.3%であったということです。
 

4 最高裁判所第1小法廷平成26年10月23日判決・民集68巻8号1270頁
  (判時2252号101頁,判タ1410号47頁,労判1100号5頁)

 マタハラに関しては新聞報道されたとおり,注目すべき最高裁判決が出されています。
 

(事案の概要)

Yは,医療介護事業等を行う消費生活協同組合であり,A病院等複数の医療施設を運営している。Xは,平成6年3月,Yとの間で,理学療法士として理学療法の業務に従事することを内容とする期間の定めのない労働契約を締結し,A病院の理学療法科(その後,リハビリテーション科に名称が変更された。)に配属された。その後,Xは,診療所等での勤務を経て,平成15年12月,再びリハビリ科に配属された。その当時,リハビリ科に所属していた理学療法士は,同科の科長を除き,患者の自宅を訪問してリハビリテーション業務を行うチーム(以下,「訪問リハビリチーム」といい,その業務を「訪問リハビリ業務」という。)又はA病院内においてリハビリテーション業務を行うチーム(以下,「病院リハビリチーム」といい,その業務を「病院リハビリ業務」という。)のいずれかに所属するものとされており,Xは訪問リハビリチームに所属することとなった。
 
Xは,平成16年4月,訪問リハビリチームから病院リハビリチームに異動するとともに,リハビリ科の副主任に任ぜられ,病院リハビリ業務につき取りまとめを行うものとされた。
その頃に第1子を妊娠したXは,平成18年2月,産前産後の休業と育児休業を終えて職場復帰するとともに,病院リハビリチームから訪問リハビリチームに異動し,副主任として訪問リハビリ業務につき取りまとめを行うものとされた。
 
Yは,平成19年7月,リハビリ科の業務のうち訪問リハビリ業務をYの運営する訪問介護施設であるBに移管した。この移管により,Xは,リハビリ科の副主任からBの副主任となった。
Xは,平成20年2月,第2子を妊娠し,労働基準法65条3項に基づいて軽易な業務への転換を請求し,転換後の業務として,訪問リハビリ業務よりも身体的負担が小さいとされていた病院リハビリ業務を希望した。これを受けて,Yは,上記の請求に係る軽易な業務への転換として,同年3月1日,XをBからリハビリ科に異動させた。その当時,同科においては,Xよりも理学療法士としての職歴の3年長い職員が,主任として病院リハビリ業務につき取りまとめを行っていた。
 
Yは,平成20年3月中旬頃,本件病院の事務長を通じて,Xに対し,手続上の過誤により上記の異動の際に副主任を免ずる旨の辞令を発することを失念していたと説明し,その後,リハビリ科の科長を通じて,Xに再度その旨を説明して,副主任を免ずることについてその時点では渋々ながらもXの了解を得た。
その頃,Xは,Yの介護事務部長に対し,平成20年4月1日付けで副主任を免ぜられると,X自身のミスのため降格されたように他の職員から受け取られるので,リハビリ科への異動の日である同年3月1日に遡って副主任を免じてほしい旨の希望を述べた。
 
上記のような経過を経て,Yは,平成20年4月2日,Xに対し,同年3月1日付けでリハビリ科に異動させるとともに副主任を免ずる旨の辞令を発した(以下「本件措置」という。)。
Xは,平成20年9月1日から産前産後の休業をし,引き続いて育児休業をした。

Yは,リハビリ科の科長を通じて,育児休業中のXから職場復帰に関する希望を聴取した上,平成21年10月,育児休業を終えて職場復帰したXをリハビリ科からBに異動させた。その当時,Bにおいては,Xよりも理学療法士としての職歴の6年短い職員が本件措置後間もなく副主任に任ぜられて訪問リハビリ業務につき取りまとめを行っていたことから,Xは,再び副主任に任ぜられることなく,これ以後,上記の職員の下で勤務することとなった。上記の希望聴取の際,育児休業を終えて職場復帰した後も副主任に任ぜられないことをYから知らされたXは,これを不服として強く抗議し,その後Yに対し,訴訟を提起し,本件措置は男女雇用機会均等法9条3項に違反する無効なものであるなどと主張して,管理職(副主任)手当の支払及び債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償を求めた。
 

(判決要旨)

最高裁は,降格を適法とした原審(広島高裁平成24年7月19日判決)を破棄し,下記のとおり判断しました。

女性労働者につき妊娠中の軽易業務への転換を契機として降格させる事業主の措置は,原則として均等法9条3項の禁止する取扱いに当たるものと解されるが,当該労働者が軽易業務への転換及び上記措置により受ける有利な影響並びに上記措置により受ける不利な影響の内容や程度,上記措置に係る事業主による説明の内容その他の経緯や当該労働者の意向等に照らして,当該労働者につき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するとき,又は事業主において当該労働者につき降格の措置を執ることなく軽易業務への転換をさせることに円滑な業務運営や人員の適正配置の確保などの業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び上記の有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情が存在するときは,同項の禁止する取扱いに当たらないものと解するのが相当である。
 
そして,上記の承諾に係る合理的な理由に関しては,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置の前後における職務内容の実質,業務上の負担の内容や程度,労働条件の内容等を勘案し,当該労働者が上記措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たか否かという観点から,その存否を判断すべきものと解される。また,上記特段の事情に関しては,上記の業務上の必要性の有無及びその内容や程度の評価に当たって,当該労働者の転換後の業務の性質や内容,転換後の職場の組織や業務態勢及び人員配置の状況,当該労働者の知識や経験等を勘案するとともに,上記の有利又は不利な影響の内容や程度の評価に当たって,上記措置に係る経緯や当該労働者の意向等をも勘案して,その存否を判断すべきものと解される。」
 
自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するかについて,
Xが軽易業務への転換及び本件措置により受けた有利な影響の内容や程度は明らかではない一方で,Xが本件措置により受けた不利な影響の内容や程度は管理職の地位と手当等の喪失という重大なものである上,本件措置による降格は,軽易業務への転換期間の経過後も副主任への復帰を予定していないものといわざるを得ず,Xの意向に反するものであったというべきである。それにもかかわらず,育児休業終了後の副主任への復帰の可否等についてXがYから説明を受けた形跡はなく,育児休業終了後の副主任への復帰の可否等につき事前に認識を得る機会を得られないまま,本件措置の時点では副主任を免ぜられることを渋々ながら受け入れたにとどまるものであるから,Xにおいて,本件措置による影響につき事業主から適切な説明を受けて十分に理解した上でその諾否を決定し得たものとはいえず,Xにつき自由な意思に基づいて降格を承諾したものと認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するということはできない。
 
その上で,降格の措置を取ることなく軽易作業への転換をさせることに業務上の必要性から支障がある場合であって,その業務上の必要性の内容や程度及び有利又は不利な影響の内容や程度に照らして,上記措置につき同項の趣旨及び目的に実質的に反しないものと認められる特段の事情があるか否かをさらに審理させるべく,原審へ差し戻した。
 

差戻審

広島高裁平成27年11月17日判決では,特別の事情を認めず,Xの請求どおり,約175万円の損害賠償を認めました(平成27年11月18日朝日新聞,日経新聞)。Yは上告を断念し確定したとされています(平成27年11月21日日経新聞)。
 

 

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