能力不足解雇

 

A 従業員に期待する能力がなく,普通解雇したいと思いますが,問題はありますか。

Q 当該企業の種類・規模・職務内容,労働者の採用理由,勤務成績,勤務態度の不良の程度,解雇しなければならないほど態度が悪いのか,1回きりのミスか,反復したものか,改善の余地があるか,会社の指導があったか,他の労働者との取扱いに不均衡はないか等を総合的に判断して,客観的に合理的な理由があるか,社会通念上相当であるか(労働契約法16条)が決せられますので,具体的ケースでの当否については,普通解雇にする前に,弁護士にご相談下さい。

 

【有効とされた裁判例】

 

① 日水コン事件 東京地裁平成15年12月22日判決・労判871号91頁

「原告は,被告からコンピューター技術者としての豊富な経験と高度の技術能力を有することを前提に,被告の会計システムの運用・開発の即戦力となり,就中,将来は当該部門を背負って立つことをも期待されて,SEとして中途採用されたにもかかわらず,約8年間の同部門在籍中,日常業務に満足に従事できないばかりか,特に命じられた業務についても期待された結果を出せなかった上,直属の上司であるAの指示に対し反抗的な態度を示し,その他の多くの課員とも意思疎通ができず,自己の能力不足による業績不振を他人の責任に転嫁する態度を示した。そして,人事部門の監督と助力の下にやり直しの機会を与えられたにもかかわらず,これも会計システム課在籍中と同様の経過に終わり,従前の原告に対する評価が正しかったこと,それが容易に改善されないことを確認する結果となった。このように,原告は,単に技術・能力・適格性が期待されたレベルに達しないというのではなく,著しく劣っていてその職務の遂行に支障を生じており,かつ,それは簡単に矯正することができない持続性を有する原告の性向に起因しているものと認められるから,被告就業規則59条3号及び2号に該当するといえる。」

「そして,このような長期にわたる成績不良や恒常的な人間関係のトラブルは,原告の成績不良の原因は,被告の社員として期待された適格性と原告の素質,能力等が適合しないことによるもので,被告の指導教育によっては改善の余地がないことを推認させる。」

 

② 日本ストレージ・テクノロジー事件 東京地裁平成18年3月14日判決・労経速1934号12頁

「客観的に認定できるXの勤務態度からすれば,Xが,Yにおいてその勤務態度をことさら問題視されたことが上司との相性や上司のXに対する嫌悪の情に起因するとはいえず,Xは上司の再三の指導・注意にもかかわらず,自己の勤務態度を反省して改善することがなかったと判断せざるを得ないから,Xは,業務の遂行に必要な能力を著しく欠くと認められ,また,これに準ずるやむを得ない事由がある場合に該当すると認めることができ,本件解雇は,客観的に合理的な理由が存在し,社会通念上相当であった。」

 

ヘッドハンティングなどで雇用された場合は,求められる能力も高いため,新卒社員より緩やかに解雇が認めらやすいといえます。

 

③ EC委員会事件 東京地裁昭和57年5月31日決定・下民集33巻5~8号875頁,下民集34巻5~8号751頁,判時1042号67頁,判タ468号65頁,労判388号42頁

試用期間直前の解約権行使について,能力は期待に応えるものではなかったばかりでなく,英語の能力も採用時に予想していた程度に達していなかったとして,解雇有効とした仮処分決定。

「申請人は,駐日代表部報道室のAランク職員として被申請人に採用され,ECジヤーナルの編集,発行を主とし,その他広報活動全般にわたつて活躍することを期待されていたところ,試用期間中において,ECジヤーナルの編集,発行の仕事,とりわけ校正,原稿整理等の仕事に力を注ぎ,その余の広報室の仕事については積極的にこれを遂行しようとしなかつたのみならず,その仕事ぶりにはミスがないでもなかつたものである。しかも,右編集,発行に関する申請人の能力は,被申請人の期待に応えるものではなかつたばかりでなく,申請人の英語の能力も,被申請人が採用時において予想した程度に達していなかつたものであり,さらに,申請人は,上司の命に素直に従わず,また,同僚の職員等との協調性に欠ける点があつたのである。そして,他方,被申請人は,駐日代表部の雇用形態としていわば能力主義を採用し,ランク別に地位,給与等に格差を設け,AランクやBランクの該当者に対しては年齢が若くてもかなり高い給与を支給していたものであり,この点からみると,被申請人が,右のような高いランクの職員の採用に際して,適格性の審査を十分に行うため試用期間を設けて解約権を留保するのは,このような雇用形態を採らない場合に比し,より強い合理性を有するものということができ,本件契約において留保された解約権の行使は,ある程度広くこれを認めることができるというべきである。」

「申請人が,大学卒業後数年間他の職についた後に採用された,いわゆる中途採用者であり,他方,被申請人が,日本において営利を目的とする民間企業でなく,欧州共同体という国際機関の委員会であつて,その駐日代表部は我国における広報活動を含む諸活動に従事するものであることなど前認定の事実関係をすべて総合して判断するときは,被申請人が,申請人について,駐日代表部の職員として適格性を欠くとしてその本採用を拒否したことは,試用期間に伴う前記解約権留保の趣旨,目的に照らして合理的な理由が存在し,社会通念上相当として是認することができるものといわざるを得ない。

 そうすると,被申請人が本件終了通知によつてした解雇の意思表示は有効であつて,申請人は,右解雇の意思表示がその効力を生じた時に被申請人の職員としての地位を喪失したものというべきである。」

 

④ 朝日新聞社事件 大阪地裁平成13年3月30日判決・労経速1774号3頁

Xは歯科医師であり,日刊新聞紙の発行を主たる業務とする Y 社に,常勤嘱託として勤務し,その後,Y 社の歯科診療所の管理職となった 。

「・・・労働者に従業員としての適格性の欠如や使用者との信頼関係の喪失を招来するような客観的に合理的な事由がある場合には,Y社は,解雇をなしうるのであり,本件解雇・・・の解雇通知書には,Y社は本件解雇の事由をあげるとともに,Y社との信頼関係が喪失され,従業員として不適格であると判断したと記述されていることからすれば,本件解雇・・・が,根拠を欠く無効なものであるとはいえない。 」

「Y社が主張する解雇事由のうち,少なくとも・・・Xの診療についての患者からの苦情や・・・虚偽の電子カルテの記載・・・他の医師の印鑑を承諾なく使用しての薬の処方については,使用者たるY社との信頼関係を喪失し,従業員としての適格性を否定するものといえ,解雇の合理的な理由足りうるものといえる。 」

「Xの治療に対しては,患者から少なくない苦情があり・・・またXは,電子カルテに実際には行っていない診療項目を記載して保険請求を行い,自己処方あるいは他の医師に渡すために多量の薬を処方するために他の同僚歯科医師の印鑑を承諾なく使用してカルテを作成していた・・・こと・・・非協力的な態度であった・・・Xの勤務態度・・・などから・・・他の歯科のスタッフとの人間関係はうまくいっていなかった・・・こと・・・(また)漫然と・・・不適切なカルテの記載を行っていた・・・こと自体が,歯科の管理者としては不適切な行為であったといわざるをえない(こと)・・・前記のとおりのXの診療内容に対する患者からの苦情やスタッフの疑念,Xの勤務状態,これらに起因する歯科内部での人間関係の悪化,歯科医師という専門職としてY社に雇用され他の職場へ配置転換することができないことなどをも総合考慮すれば,かかるXに対し,解雇をもって対処することが社会通念上相当性を欠くものとまではいえない。 」

 

【無効とされた裁判例】

 

① セガ・エンタープライゼス事件 東京地裁平成11年10月15日決定・労判770号

労働者の業務遂行が平均的な水準を下回っていることを認めつつも,就業規則の能力不足解雇の規定は,著しく能力が劣り,向上の見込みがない場合に解雇ができる規定であるとして人事考課が相対評価であったことや体系的な教育や指導を実施,して労働者の能力向上を図る余地があったとして解雇を無効とした。
 

② エース損保事件 東京地裁平成13年8月10日決定・労判820号74頁・判時1808号129頁,判タ1116号148頁

1 長期雇用システム下で長期間勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合の濫用性判断要素
2 解雇事由が使用者の不適切な配転に起因して発生したこと等から,解雇権濫用と認めて解雇を無効とした事例
3 疎明の程度を考慮して仮払期間を比較的長期とし,債権者の経済状態も考慮して仮払金額を賞与及び過去の賃金を含め賃金全額とした事例

 
長期雇用システム下で定年まで勤務を続けていくことを前提として長期にわたり勤続してきた正規従業員を勤務成績・勤務態度の不良を理由として解雇する場合は,労働者に不利益が大きいこと,それまで長期間勤務を継続してきたという実績に照らして,それが単なる成績不良ではなく,企業経営や運営に現に支障・損害を生じ又は重大な損害を生じる恐れがあり,企業から排除しなければならない程度に至っていることを要し,かつ,その他,是正のため注意し反省を促したにもかかわらず,改善されないなど今後の改善の見込みもないこと,使用者の不当な人事により労働者の反発を招いたなどの労働者に宥恕すべき事情がないこと,配転や降格ができない企業事情があることなども考慮して濫用の有無を判断すべきである。」


③ 森下仁丹事件 大阪地裁平成14年3月22日判決・労判832号76頁

「平成8年度以降の原告の成績は,芳しくなく,主にC評価がつけられてきた。そして,このCという,標準より劣るという評価も,札幌支店での盗難事件や,栄光仁丹薬品での販売職としての業績不振,また,同社業務課での大量の伝票処理ミスとそれによる誤った決算書の作成という結果などに鑑みれば,不当な評価であったとまではいえない。
 しかしながら,(1)原告は,リストラの対象とされた平成8年以前には,概ねB,標準という評価を受けていたこと,(2)平成8年4月以降平成11年3月までの栄光仁丹薬品での営業職としての勤務については,原告の後任の者でも予算を達成できなかったことや同社の営業自体が不振であったことなどをも考慮すれば,原告の成績不振を一概に非難はできないこと,(3)平成11年10月以降の仁丹栄光薬品での業務課での業務は,かつての札幌支店での業務では女性の部下がいたことと異なり,コンピューターを使っての大量の伝票処理を1人でやるというものであり,原告にとって慣れない業務であったことが容易に推認できること,(4)被告では,本社物流課での業務のように,原告がミスなく業務を行なうことができる職種もあること,(5)被告の就業規則では,人事考課の著しく悪い者等については,降格ということも定められていることなどに鑑みれば,未だ原告について,被告の従業員としての適格性がなく,解雇に値するほど「技能発達の見込みがない」とまではいえない。
 また,被告は,原告の札幌支店での盗難事件や仁丹栄光薬品での経理ミスが,「業務上やむをえないとき」という解雇理由に該当するとするが,前者はすでに約6年ほど以前の事柄であるうえ,それぞれ,顛末書,始末書等の作成を命ぜられていることや,さらには,いずれの事由も通常考えられる「業務上やむをえないとき」の文理に合致するものではないことからすれば,これらが前記解雇事由に該当するという被告の主張は採用しえない。
 よって,本件解雇は,被告の解雇権濫用であって,無効であるから,原告の本件地位確認等の請求は理由がある。」


④ 国(在日米軍司令部・解雇)事件(東京高判平成18年12月21日労判936号39頁)

「MLC第10章4項(不適格解雇の手続)のA(予備措置),b(解雇予定通知)によれば,HAPを実行した後,なおその者が十分に職務を遂行できない場合には,米国政府側(在日米軍司令部)は,『その者の能力に相応する職務が得られるか否かを確認するものと』し,『その能力に相応した職務が得られない場合又はその者が能力に相応した職務につくことに同意しない場合』に・・・解雇手続を開始するか否かの判断をすることとされている。」
「そこで,Xに対し,『その者の能力に相応する職務が得られるか否かを確認する』措置(『相応職務確認措置』)を取ったか否かを検討する必要がある。」
「MLCの定める予備措置は,解雇が従業員に与える影響の大きいことを配慮し,当該職務については不適格者であっても,他の職務についてまで不適格者とはいえないことから,米国政府側(在日米軍司令部)において,その者に適する職務を提供できるか否かを確認し,これを提供できる場合で,当該従業員がその職務への配置転換に同意するのであれば,在日米軍司令部でその配置転換を実行することで,解雇を回避しようとした手続ということができる。そうすると,米国政府側ですべき相応職務確認措置は,当該従業員が同意すれば配置転換を実行できるような職務を同従業員に提供できるか否かを確認すること,これを提供できる場合にはその情報を同従業員に提供することを意味するものと解するのが相当である。」
「Xに提供した情報は,インターネットで確認できるような一般的な求人情報にすぎず・・・実際の配置転換先の候補になり得るものは,わずかなものにすぎなかった・・・事実に照らすと,在日米軍司令部やYにおいて,Xが同意すれば配置転換を実行できるような職務をXに提供できるか否かを確認する措置をとったとは到底認められないのであって,Yないし在日米軍司令部がXについて相応職務確認措置をとったとはいえない。」
「以上のとおりであるから,本件解雇は,予備措置である相応職務確認措置を経たとは認められないところ,解雇を避けるための同措置の重要性にかんがみれば,同措置を経ていない本件解雇は・・・無効というべきである。」
 

判断要素

① 当該企業の種類,規模,職務内容
→2,3人しかいない,能力が低い,他の業務で発揮させる機会がないときはハードルは低くなる
② 労働者の採用理由(職務に要求される能力,勤務態度がどの程度か)
→はじめから非常に高い能力を買って雇い入れた場合はハードルが下がる
③ 勤務成績,勤務態度の不良の程度(企業の業務遂行に支障を生じ,解雇しなければならないほどに高いかどうか)
④ 解雇しなければならないほど態度が悪いのか
⑤ その回数(1回の過誤か,繰り返すものか)
→1回だけか,何十年もやって改善が指導されている場合にはハードルが下がる
⑥ 改善の余地があるか
⑦ 会社の指導があったか(注意・警告をしたり,反省の機会を与えたか)
→同じような成績で,同じような期間改善しなかった労働者
⑧ 他の労働者との取扱いに不均衡はないか
→他方は解雇し,他方は解雇しない→組合の活動家だと不当労働行為になる
などを総合的に判断
 

その他の能力不足解雇の裁判例

 

  解雇有効と判断したもの


1 EC駐日代表部(本採用拒否)事件・東京高裁昭和58年12月14日判決・労民集34巻5・6号922頁
2 フォード自動車事件・東京高裁昭和59年3月30日判決・労判437号41頁
3 アド建設設計事務所事件・東京地裁昭和62年3月30日判決・労判497号70頁
4 持田製薬事件・東京高裁昭和63年2月22日決定・労判517号63頁
5 横浜米海軍基地事件・横浜地裁平成3年8月1日判決・労判597号68頁
6 エイゼットローブ事件・大阪地裁平成3年11月29日決定・労判599号42頁
7 禁野産業事件・大阪地裁平成11年3月26日判決・労経速1708号14頁
8 北海道龍谷学園事件(旧:小樽双葉女子学園事件)・札幌高裁平成11年7月9日判決・労判764号17頁
9 日本エマソン事件・東京地裁平成11年12月15日判決・労経速1759号3頁
10 プラウドフットジャパン事件・東京地裁平成12年4月26日判決・労判789号21頁
11 ヒロセ電機事件・東京地裁平成14年10月22日判決・労判838号15頁
12 自警会東京警察病院事件・東京地裁平成15年11月10日判決・労判870号72頁
13 日水コン事件・東京地裁平成15年12月22日判決・労判871号91頁
14 横浜市学校保健会(歯科衛生士・解雇)事件・東京高裁平成17年1月19日判決・労判890号58頁
15 A 病院(医師・解雇)事件・福井地裁平成21年4月22日判決・労判985号23頁
16 類設計室事件・大阪地裁平成22年10月29日判決・労判1021号21頁
17 日本基礎技術事件・大阪高裁平成24年2月10日判決・労判1045号5頁 (試用期間中の解雇)
18 ロイヤル・バンク・オブ・スコットランド・ピーエルシー事件・東京地裁平成24年2月28日判決・労例ジャーナル3号8頁
 
 

  解雇無効と判断したもの


1 帝国興信所事件・神戸地裁昭和55年3月27日判決・労判349号37頁
2 全日本空輸(退職強要)事件・大阪高裁平成13年3月14日判決・労判809号61頁
3 中川工業事件・大阪地裁平成14年4月10日決定・労経速1809号18頁
4 東京エムケイ事件・東京地裁平成20年9月30日判決・労判975号12頁
5 コアズ事件・東京地裁平成24年7月17日判決・労判1057号38頁
6 ブルームバーグ・エル・ピー事件・東京高裁平成25年4月24日判決・労判1074号75頁

 

 

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